はじめの一歩7月号(通算第77号 )
「出会いに感謝します」
須崎満喜子
もともと缶詰を常備している我が家では、おいしそうな物があるとつい買ってしまいます。生協も利用していて、カタログに近くのお店では置いてなさそうな惹かれる物があったので、その時も在庫がかなりあるにもかかわらず、また購入してしまいました。
収納庫を開けるたび気にはなるものの、当分保存できるし普段食べるにはもったいない気もして、そのまま時が過ぎました。
そしてあの東日本大震災があり、私たちの住んでいるところも計画停電を余儀なくされました。その晩、夕飯は缶詰を食べようということになり、主人が選んで出してきたのはその鰯の缶詰でした。「もったいないからそれは置いといて、違うのにしようよ・・・」と言わせる間もなく開けてすぐさまほおばってしまいました。「これすっげえうまい!食ってみ!」というので私もひとくち、本当に缶詰とは思えないほど今までに食べたことのないおいしさです。「また買いたいね。」と二人で感動してしまいました。
夕食後、空き缶をいつものようにすすいで水を切るために逆さまに伏せたところ、底に何か文字が印刷されていることに気づきました。
「出会いに感謝します」と。
珍しいなと思いつつどこの会社だろうとラベルを見たら、あの当時、ニュースなどで会社のシンボルであろう鯨の大和煮の缶詰の形をした巨大なタンクが、流され横倒しになっていた会社のものだとわかりました。 いつもなら資源ごみとして出してしまうのですが、あの味とそれに勝るこの缶底のメッセージに感動して、今も捨てられずにラベルと共に大事に保管しています。
物を通して人と出会うことに感謝する、そして人を動かす、そんな力強さをこの会社から学んだ気がします。こちらこそ「出会いに感謝します」。